本の林:「断片的なものの社会学」 岸 政彦、朝日出版社
【連想する本】
■「一生お金に困らない生き方」 心屋 仁之助、PHP研究所
これは、数年前から私の「お気に入り本ランキング」の首位をひた走っている本です。
この本が醸し出す静けさがとても良いのです。
読み出すと周りの光と音がわずかに落ち、ゆったりとした時間の中で思考を巡らすような、そんな感覚に浸れます。
この本は、社会学者の岸 政彦さんが書いたもので、ご自身の研究活動を通じて出会った様々な人たちとの会話の中から、「論文にはならないけど、印象に残った出来事」を中心に、日々の生活で感じることやご自身の考えを情緒たっぷりにまとめたものです。
失礼な表現ですが、端的に言えば「無駄のかたまり」のような本です。
でも、「無駄がある」または「無駄を愛する人がいる」ということそのものが、私のような人間にとって救いだったりするのです。
同じような雰囲気をもっている本が
「スカイ・クロラ」 森 博嗣、中公文庫
なんですよね。(ちなみに、今回紹介する本を読むまでは「スカイ・クロラ」が私の「お気に入り本ランキング」の首位でした。)
目次の一部を抜粋しますと、
誰にも隠されていないが、誰の目にも触れない
ユッカに流れる時間
自分を差し出す
最初の「誰にも隠されていないが、誰の目にも触れない」は、私にとっては印象的な言葉で、この本を読んだ後、何となく私の頭の片隅に滞留しています。
二つ目の「ユッカに流れる時間」は、はっきりと残っている言葉はないのですが、この章が醸し出す雰囲気はずっと私の中に残っています。
この章の冒頭だけ紹介します。
ずっと前に、バスのなかから一瞬だけ見えた光景。倒産して閉鎖したガソリンスタンドに雨が降っている。事務所のなかの窓際に大きなユッカの木が、誰からも水をもらえず、茶色く立ち枯れている。ガラス一枚こちらでは強い雨が降っている。そのむこうで、ユッカは、乾涸らびて死んでいた。
この本の雰囲気をよく表した一節だと思います。
実は、この中には沖縄の話もありまして、GW旅行で沖縄を選んだ根底にはこの本があったりします。
他にも紹介したい一節が山のようにあるのですが、その全部を紹介すると「ほぼ全部」をここに載せてしまいそうなので止めときます 笑
でも、あと一節だけ紹介させてください。
それは、あとがきの冒頭
いま、世界から、どんどん寛容さや多様性が失われています。私たちの社会も、ますます排他的に、狭量に、息苦しいものになっています。この社会は、失敗や、不幸や、人と違うことを許さない社会です。私たちは失敗することもできませんし、不幸でいることも許されません。いつも前向きに、自分ひとりの力で、誰にも頼らずに生きていくことを迫られます。
たぶん、これが言いたいがためにこの本を書いたんじゃないかな。
この本は、著者が感じている社会の傾向に対して、静かに抵抗する本なんだと思います。
この本と実は通じるところがあるんじゃないかな?と思うのがこの本
「一生お金に困らない生き方」 心屋 仁之助、PHP研究所
意外な本を出しますけど、この本は結局のところ「良い悪いは横に置いておいて、まずはあるがままの自分を受け入れてみようよ」ということが言いたいのかなと思います。
だから、多様性を尊重するという意味で共通点があるかな、と。
まぁとにかく、40代後半になっても、こういう素朴なことを考えて、率直に表現できるというのは、とても素敵だなと思います。