いいかげん日記

思いついたことをただひたすら書き殴るいいかげんな日記です。

本の林:「これからの僕らの働き方」 横石 崇 編、早川書房

 

本の林:はじめに

 【連想する本】

■「人間の条件」 ハンナ・アレント筑摩書房

「CODE VERSION 2.0」 ローレンス・レッシグ、翔泳社

「断片的なものの社会学」 岸 政彦、朝日出版社

 

すごく乱暴にまとめると、「変な働き方をしている10人に話を聞いて一冊の本にしました。」という本です。(乱暴すぎ?笑)

 

ちょうど就活シーズンなので、就活生の多くが自分と自分の将来を見つめているところだと思いますが、この本で取り上げられている人たちはそれぞれが独自の感性や世界観や今後の目標をもって能動的に活動している人たちで、とても輝いて見えます。(就活生の参考になるかどうかはわかりませんが、就活で大失敗してもなんとかなるのではないか、とは思えるかもしれません。)

 

閉塞感漂う今のご時世でも、というか、技術が発達した今だからこそ、考え方一つと情熱でこういう自由な在り方ができるんだなぁ、となんだか心が軽くなる本でした。

 

で、この本の「File 2 36歳、ヤフー・ジャパンの役員に」の中にある一節をご紹介。

ぼくは、ITを使っていろいろなことを機械に任せたいんですよ。

(中略)

そうすると、空いた時間で好きなことができる。ぼくは長らく音楽を趣味にしているので、音楽ももっとやりたいし、個人的に開拓している森ももっと手を入れたい。生きるための仕事は極力効率化して、文化的な活動に残りの時間をあてたいんです。言うなれば、スマートなギリシャ時代を実現したいんですよ。 

 この一節を読んで、ハンナ・アレントの「人間の条件」を思い出しました。

「人間の条件」を読んだとき、古代ギリシャ人が持っていたとされる価値観(生存に必要な作業に時間を取られる者は家畜と同じ)が、私が幼い頃から両親にすり込まれ続けてきた価値観(働かざる者食うべからず)とは正反対だったこと、そして、古代ギリシャ人の主張にも納得している自分がいることに軽くショックを受けた記憶があります。

「人間の条件」には、「芸術の価値とは?」という話なんかも書かれていて、新しいモノの見方を教わりましたね。

(この2つの発見で満足してしまったところもあり、未だに読了できていない本でもあるのですが 笑)

 

そんなこんなで、「スマートなギリシャ時代」の到来は待ち遠しいですね。

ぜひ実現していただきたい(他力本願)

 

 

そして、「File 6 法律でクリエイティブを加速させる」から、もう二節ほどご紹介

学部生の頃はプロデューサーや編集者のような、クリエイターをサポートしてカルチャーを盛り上げていく職業につきたいと思ってたんです。そんななか、サイバースペースにおける法規制のあり方を考察した、ローレンス・レッシグの『CODE——インターネットの合法・違法・プライバシー』という本を読みました。 

 私は最初の版を読んでいませんが、その改訂版の「CODE VERSION 2.0」は手元にあります。(これまた読みかけですが 笑)

この本は、インターネットという空間についての問題提起と著者なりの問題解決を語ったものですが、まじめにネット空間のあり方をどうすべきかを考察した本は読んだことがなくて、とても新鮮な気持ちで楽しめたという記憶があります。

ネット空間は、現実世界とは違い、物理法則のような絶対的に服従しなければならない法則は存在しない。が、実際には、コード作成者の他、コードを理解できる少数を除いた多くの人達にとって、コード作成者の作ったネット上のシステムは、そのシステムの中にいる限り、現実世界の物理法則のような絶対的な法則になっている。つまり、コードを書くことは、ネット空間における絶対的な権力の行使に等しい。

というような主張だったかと思います。私にはとても新鮮な視点からの主張で、それと同時に考えさせられる内容でした。いい本です。

 

僕も「Chim ↑ Pom」の事件で、裁判所に彼らがやったことをどう伝えるか、悩みました。わかってもらうためには、彼らの作品を解釈して、わかりやすく伝えなければいけない。でも、わかりやすく説明すると、彼らの「豊かさ」を削いでしまわないだろうか、ということを悩みます。それが本当に正しかったのかどうかは、答えがありません。だからこそ、わかりやすく伝えることの「暴力性」みたいなものには、自覚的でありたいと思っています。 

 

この中の「暴力性」という言葉から、なんとなく、岸 政彦「断片的なものの社会学」を思い出しました。本当は、もう一冊もっとぴったりな本があったようにも思うのですが、今は思い出せません。確かあったんだよな。。

 

私たちが持っている、そうした幸せのイメージは、ときとして、いろいろなかたちで、それが得られない人びとへの暴力になる。たとえば、それを信じたせいで、そこから道が外れてしまったときには、もう対処できないほど手遅れになっていることがある。 

         ———岸 政彦「断片的なものの社会学

 

この本「これからの僕らの働き方」を読んで、これらの本たちと再会しました。

そして、この本は、10人の気さくで明るい語りが詰まっているので、読後にさわやかな風が吹くような、そんな爽快感を感じることができました。なかなかよい本です。